片方に開く空間

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みなさん、お元気ですか?GRIDFRAMEの田中です。

今回は、改装したSOTOCHIKUショールームについて紹介します。このショールームは、同時に、オフィスでもあります。今、ショールームでぼくはこの文章を書いています。

<理想のオフィス>

ぼくは、創造的に働くための理想のオフィスをつくろうとして、天井2.5mくらいに過ぎない普通の高さにもかかわらず、一部にロフトをつくって上1mと下1.5mに分けたのでした。

その理由の源泉を辿ると、遠い昔ニューヨーク州バッファローで学生だった頃に書いた文章にたどり着きます。

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【鳥ではなく、リスのように】

校舎の外にはたくさんの栗の木があって、また、それを食べて生きるリスがたくさんいる。

足元には、リスたちの身長くらいの少し背の高い芝生があって、秋には、彼らが栗の実を探し回る様子を私は愉しげに眺めていた。

あっちを走って、そこにはない、こっちを走って、やっぱりない。そうこうしているうちに、栗の実に出くわすと、リスだってやっぱりうれしそうだった。

鳥だったら、空から見下ろして、すぐに見つけられるのにね。

鳥のように、俯瞰してものを見たい、と誰もが憧れる。私だってそうだ。

けれど、私はリスのように生きたい。

リスは草をかき分けて、草に触れる。土に触れる。石ころにぶつかる。虫にぶつかる。・・・どうしても栗の実にたどり着けなければ、木に登って、見下ろしてみることもできる。木に登ることで、木のこともたくさん知れる。

出会うことの多い一生。触れる機会の多い一生。

そういった意味では、リスは、鳥を圧倒するだろう。

私はリスのように生きたい。

何億年もかけて進化してきた私たち人間には、羽が与えられていないのだから。

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【片方に開く空間】

しかし、思い返せば、子供の頃の夢はずっと旅客機のパイロットになることでした。だから、その頃は鳥になりたかったのだと思います。でも、寝転んで漫画を読みすぎてw、視力が落ちた高2の頃からは、空への憧れだけが残りました。

そして、空への憧れは、ぼくのその後に影響を与えました。

「空が閉ざされていたら生きることはつまらないし、未来が分かるなら生きる必要がない。」

20代後半に建築を志してから、上のような認識から、空を「地球上の生き物全てに対して平等に開かれている空間」と見るようになりました。空間的に開かれていることは、未来が「地球上の生き物全てに対して平等に開かれている」ことを思い出させてくれます。

つまり、ぼくらの人生は片方に開いている。

カッパドキアの洞窟からの眺め
HIROMAS HOSTEL

だから、空間をつくる中で、ぼくはずっと「片方に開く空間」をつくろうとしてきました。心的に「開かれた自分でいられるような空間」を供給するために。

空間をつくる仕事を27年近くやっている中で、創造的に空間をつくることを自負しているぼくたちが困難に直面した時期がありました。

例えば、2010年頃からSNSで流行っている店舗の画像がネットに溢れるようになり、気に入った店のマネをしたい、という方が急激に増えたのです。同じ環境にあるはずの諸外国では、どんどん見たことのない店舗空間が増えていく中、日本だけが保守的になり、創造的な気運が遠のいていきました。心的に未来へ向かって閉じている、とはつまり、こういう状況を指します。

自分をとりかえのきかない存在だと実感できなくて、心に病を抱える人が増えていると言われるのもその表れではないでしょうか。

日本の創造力は長い間凍結されたように滞り、逆に、諸外国、特に中国をはじめアジア諸国では創造的なモノや空間がたくさんつくられてきたように、ぼくには感じられます。

「片方に開く空間」は、今の日本の風潮へのアンチテーゼになりえます。ぼくらがつくりたい空間は、自分が未来をよくすることができると信じて、自分の考えの真価を社会に問うような姿勢で試行錯誤しながら一生懸命挑戦し続けることができる空間です。

鳥ではなく、リスのように。

時代が大きく変わろうとしている今こそ、人々が自分に入ってくる情報を選んで疎の状態を保ち、創造的に過ごせる空間とは何かを考え、提示していく必要があると思います。

KZ邸

【ロフト下の空間:リスのように試行錯誤を繰り返す】

さて、上述のようなコンセプトの下、今回ショールーム内にオフィス空間をつくりました。

ロフト下の空間が、設計や執筆などの創造的仕事を進めるスペースです。

高さは1.5m。この下にまっすぐに立つことはできませんが、一旦イスに座ると頭の上には10センチ以上の余裕があり、床壁天井に囲まれた狭いようでゆったりとしたスペースで働くことができます。ライトは机を照らす一つだけで、暗い空間である方がより集中できると思います。

この空間は、物理的にも「片側に開く空間」になっており、洞窟の出口から光が差し込むような環境に近いです。ぼくらが希望を心に描くときに、共通に出てくるイメージではないでしょうか。

独立性が高く、集中力を高く保ちやすい空間で、疲れたときにふっと顔を上げると、外の風景が広がっています。

【ロフト上の空間:リスのように木に登って見下ろしてみる】

リスがどうしても栗の実が見つからないとき、木に登って高いところから探すように、少し目線を上げることで近くにあるモノの見え方がガラリと変わります。地上からの目線だと見えないモノも見えてくる。いたずら心も芽生えたりする。子供の頃にワクワクしながらやったような。

ロフトの高さは1.5m。目線は2.2m以上に上がり、景色が変わります。そして、ロフトの上から天井までは1m。座るには十分な高さです。その端の一辺にカウンターをつくりました。3人がゆったり座れます。ここに並んで座って、コーヒーを飲みながらゆったりと話をすると、一緒にいる人と打ち解けることができたりします。

実際に、初対面のクライアントと横並びにインタビューさせていただきましたが、「とても話しやすい」と言っていただきました。向かい合って話すよりも、それぞれが前を向いて話すことで、落ち着いて素の自分から出てくる言葉を交わすことができます。

また、カウンター以外のスペースは、仮眠を取ったり、寝そべって本を読んだり、物置にしたり、・・・さまざまな用途を探せます。

【壊れたモノを、包む】

ロフトの上下から違った角度でGRIDFRAME構造のレイヤーの向こうに、壊れたモノがGFメッシュによってやわらかに固定されながら、剥き出しに壁面を構成しているのが見えます。

GFメッシュは遠くへ離れるほど存在感がなくなり、壊れたモノそのものを見ているようです。GFメッシュで吊り上げた部分は、壊れたモノが浮いているようにも見えます。

そして、壊れたモノに近づくと、GFメッシュがやわらかく、やさしく、まるで毛細根のように壊れたモノに絡みながら、支えているのを感じます。

例えば、The Art of Tea TOKYOでGRIDFRAME構造がハードに、しっかりと壊れたモノを押さえて固定している姿とは、全く別の印象を受けると思います。

GRIDFRAME構造は「詰める」のに対して、GFメッシュは「包む」。

詰めることは、できあがるカタチを優先し、そのカタチに壊れたモノを合わせる。
包むことは、壊れたモノのカタチを優先し、そのカタチにできあがりを合わせる。

新人スタッフ須澤の提案から開発したGFメッシュ。それは、壊れたモノを「ガレキ」と呼ばない心をつくり方で表そうとした結果です。

余談ですが、時折GFメッシュのジョイントパーツを「かわいい」という方もいらっしゃいますw。

【創造的になれるオフィス空間】

ぼくらのつくる空間は、そこにいる自分がとりかえのきかない存在であることを思い出させてくれるのは何か、と問いかけるものでありたいと思います。

ビジネスの世界では、人を手段として見ることを避けられないので、自分をとりかえのきく存在と感じてしまうことを避けられません。でも、未来を開いていくのは、紛れもなくとりかえのきかない存在としての自分です。

多くの人が、とりかえのきく世界ととりかえのきかない世界という、二つの世界を自由に行き来できる装置を必要としていると思います。

オフィスに限らず、ぼくたちグリッドフレームは、そのような装置をつくることを根源的なテーマとして様々な空間をつくってきました。

創造的になれる空間には、心休まる環境にもなり得ることが必要だと考えます。ぼくらだって、何も考えたくないときには、とりかえのきく世界の、たくさんの人間の中に紛れるような環境に身を置きたいと思います。その方が心が休まるからです。そのような空間は、必ずしも創造的なデザインを必要としません。一見、普通でもよいのです。

けれども、その空間のディテールには何か見慣れない、不思議で複雑な質感があるとします。それは、ぼーっと眺めれば、意識の中に入ってくることもないけれど、焦点を合わせれば、思わず引き込まれて見入ってしまうようなものです。壊れたモノを筆頭に、SOTOCHIKU素材には、その力があります。

それは、ぼーっと眺めれば風景として見えてくるため、そこにいる人はとりかえのきく世界に留まることができ、焦点を合わせれば、そこに一対一の関係が成立し、とりかえのきかない世界が開かれる。そこにいる人は、選択的にどちらかの世界に属することができるのです。

二つの世界を自由に行き来できる、とは、このような空間であり、その効果を最も実感できる空間のひとつが、創造的に働くためのオフィスではないか、と考えています。

ショールームはこの考えを具現化したものです。まずは、ぼくがショールームで仕事をして、ここまで書いてきたことを実感しています。ぜひ、ショールームへお越しいただき、ロフト下のぼくの机に座っていただき、ロフト上のカウンターで、コーヒーを飲みながらゆったり話しましょう。

<工場から出る端材を使用するプロジェクト>

ショールームにはもうひとつ、パートナーの久保が進めている、墨田区でGRIDFRAMEのものづくりにご協力いただいているさまざまな会社の工場から出る端材を使用するプロジェクトのプロダクトがあります。

今回が一つ目のプロジェクトで、レーザー加工の会社に素材をご提供いただきました。レーザーで同じパーツを規則正しく抜いた金属板は通常、リサイクル工場で溶かされ、また新しい金属板として再生されます。これをリサイクルされる前に購入し、テーブルやイスをつくりました。

工場で日々坦々と働く人たちに、ぼくたちの生活は支えられていることに想いを馳せる人はとても少ないと思います。工場の端材を見ていると工場で働く人たちの毎日が残像となって浮かんでくるような気がします。それをシンプルに感じ取れるような家具をつくりたい。それがこのプロジェクトのめざすところです。

こちらもぜひ実物をご覧ください。

次号も、SOTOCHIKU の様々な活動について、お伝えしたいと思います。

2025 年 3 月 31 日 GRIDFRAME 田中稔郎

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